デジタル一眼レフでの飛行機の動画撮影(2)

 暗所での動画撮影におけるデジタル一眼レフの優位性に関しては、既にいろいろなところで言われていますが、実証の意味でサンプルを作ってみました。

 使用したビデオカメラ(HDR-XR520V)は、家庭用のビデオカメラとしては暗さに強い機種で、特にワイドでの撮影ではかなり健闘しています。とはいえ、デジタル一眼レフ(EOS Kiss X6i + EF 70-200mm F2.8L IS II USM)の映像は、鮮明さや黒のしまり具合、発色などの点でかなり上回っています。フルサイズセンサーの EOS 5D Mark III などを使えば、さらに明るく美しく撮れると思います。

 前回の記事では日中、今回は夜間の動画サンプルをご紹介しましたが、どのように感じられたでしょうか? ビデオカメラ(HDR-XR520V)もデジタル一眼レフ(EOS Kiss X6i)も、同じ場所で同じような時間帯に撮ったものです。画質に関しては、YouTube にアップした段階でかなり劣化していますが、デジタル一眼レフの発色の良さ、階調の豊かさ、薄い霧が晴れたような(レンズの)キレの良さを、それなりに感じていただけたのではないかと思います。

 ただ、両者の機材の価格は、同じではありません。カメラ本体の価格は大きくは変わりませんが、デジタル一眼レフで使用したレンズ(EF 100-400mm F4.5-5.6L IS USM や EF 70-200mm F2.8L IS USM)は、カメラ本体の価格を大きく上回ります。旅客機の撮影には性能の良い望遠レンズが必要になりますが、これらは総じてとても高価です。

 動画撮影用としてのデジタル一眼レフは、価格(レンズを含む)や操作性から考えて、業務用のビデオカメラや映画撮影用のカメラと比較すべきものだと思います。映画やCMの撮影に使える機材としては低価格で手に入るために、プロの間では注目され、既に広範囲で使われていますが、家庭用ビデオカメラの代替機として考えるのは不適切です。例えば、上のような YouTube で公開する動画の撮影用であれば、アップロード時に圧縮がかかるせいで画質が劣化してしまうので、元動画に過剰な高画質を求めることは意味がなく、コストパフォーマンスが見合わないでしょう。デジタル一眼レフでの動体(飛行機など)の撮影は特に難しく、画質追求に対するモチベーションが高くないと、扱い難さに対する不満ばかりが募ると思います。

 一方、市販されている映画やドラマ、環境映像などのブルーレイディスクに匹敵する画質を求めるのであれば、とても魅力的な選択肢です。操作性の悪さは人間が補う必要がありますが(笑)。

 さて、私が使用しているデジタル一眼レフ(EOS Kiss X6i)を、一般的なビデオカメラ(HDR-XR520V)と比較すると、以下のような点が異なります。

(1) オートによる動画撮影(シャッタースピード、絞り、ISO感度をカメラ任せにする)は、映像の明るさ(露出)が滑らかに変化しないため使えない。
(2) 動画撮影時のオートフォーカスは、遅くて精度も悪いので使えない。
(3) マニュアルフォーカスでズームする(画角を変える)と、フォーカスがずれる。
(4) 電動ズームはない。
(5) レンズ交換ができる/レンズ交換をしなければならない。
(6) 機材が増える/かさばる/重くなる。
(7) 大容量のバッテリーがないので、頻繁に交換が必要。
(8) 解像度1920×1080(いわゆるフルハイビジョン)だと、24Pや30Pでの撮影はできるが、60iや60Pでは撮影できない。

 これらに対して、私がここ数カ月ほどで実感したことをお伝えすると、

 (1)に関しては、慣れるのにそれほど時間はかかりませんでした。(2)に関しては、被写体が動体(旅客機)の場合、マニュアルフォーカスでの撮影は決して簡単ではありませんが、なんとか対応できるようになりました。もっとも最初はピンボケ映像を量産しましたが・・・(笑)。(3)(4)に関しては、映画的な撮影スタイルを志向する人であれば、あまり問題はないと思います。一般的なビデオカメラによる、臨機応変な撮影スタイルを好む人にはお薦めできません。(5)は、現場でのレンズ交換が時間的、環境的に難しい場合は、サブカメラを用意して対応。(6)は、国内であれば(撮影ポイントの移動に車が使えるので)通常は問題ありませんが、海外や、国内でも徒歩でしかアクセスできない場所の場合は、機材をできるだけ絞り込むなどの対策が必要になるでしょう。先日、シンガポールで撮影を行ったのですが、機材を担いでの移動はなかなかハードでした(笑)。(7)は一日中、朝から晩まで撮影する場合に備えて、6個のバッテリーを準備しています。(8)は、現在までのところ特に問題を感じていません。

 (3)に関しては、1カットの中でのズームアップ/ズームダウンが事実上できない、(4)に関しては、写真用のレンズだと滑らかなズーム操作が困難なため、私のように大きな障害とは感じないという人もいれば、撮影スタイルによっては致命的な欠陥と感じる人もいるでしょう。別の見方としては、ルーク・オザワさん的な(情景的な)動画を撮影したい人にとっては格好のツール、伊藤 久巳さん的な(機体の迫力を重視した)動画を撮影したい人にとってはハードルの高いツールだと思います。

 上で映画的な撮影スタイルと述べたのは、

(a) カットの積み重ねで作品作りをする。
(b) 極端にいえば、ストーリーボード(絵コンテ)に従って、必要なカットを、あらかじめ検討しておいた方法で撮影する。
(c) ズームアップ/ズームダウンは、ほとんど使わない。

という意味合いです。

 もし手元に映画のDVDがあれば、ストーリーを追うのではなく、各カットのカメラワークやカットつなぎに注目して分析的に見てもらうとわかるのですが、映画ではズームアップ/ズームダウンはほとんど使われません(カメラ自体が動くトラックアップ/トラックバック、クレーンによる移動撮影はよく使われています)。映画撮影用のカメラには、そもそも電動ズームは付いていません。なので、映画的な映像を撮りたいプロフェッショナルにとっては、マニュアル撮影は当たり前、撮影中のズームはめったに使わない、カメラやレンズが(映画撮影用と比べれば)安い割に優秀、美しいボケ味(浅い被写界深度)が魅力的・・ということで、デジタル一眼レフでの動画撮影がスムーズに受け入れられたのだと思います。

 私は少し前から、自分で撮影したものをブルーレイディスクにして家の大型液晶テレビで見ると、市販のブルーレイディスクの映像と比べて、映像のキレの無さをとても残念に感じるようになっていました。これを改善できるのであれば、多少の制約事項は許容範囲だと感じています。所詮は趣味の世界の話なので、自己満足できることが最優先です(笑)。デジタル一眼レフの映像を体験してしまうと、特段の理由がない限りは、家庭用ビデオカメラでの撮影に戻ることは考えられなくなりました。ただ、空港やその周囲での撮影は、往々にして本格的な機材を使いずらい場合があります。そのため、従来のコンパクトなビデオカメラが不要になることは決してありません。

 今回は、私の使っているCanon の EOS の使用感に関するお話でしたが、動画の高画質追求であれば、別の選択肢も考えられます。これに関しては、また別途取り上げてみたいと思います。

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